おひっこしとおそうじ

僕は掃除をするのが苦手だ。掃除をするのがというより、物を捨てるのが苦手なのだ。引っ越す際に、部屋にあるものを整理しようと努力はしてみたが、結局ほとんどの物を持ってきてしまった。

最近、「断捨離」とか「ミニマリズム」という言葉をよく聞く。正直言って、そういったある種の新興宗教的な思想が僕は嫌いだ。

この前、実家に帰ったら庭に置いてあった物置がなくなっていた。母親に「あれどこいったの?」と聞いたら、「断捨離したの」とキラキラした顔で答えられ、僕は何も言えなかった。

僕が引っ越す時にも、母親は「断捨離して、物を持たない生活を目指してください」などと言って、やんわりと布教活動をしてきた。

この宗教に入信した人たちは「部屋の乱れは心の乱れ」というようなことを口にしてくる。なんとなく納得してしまいそうになるけど、本当にそうだろうか。

「物の数が悩みの数」なら、僕は物が沢山ある方がいいんじゃないかと思ってしまう。僕は別に悟りを開きたいわけではないし、涅槃に至るならばサウナ&水風呂の方が手っ取り早くて良いと思う。

とにかく、この思想の「無駄」を排除しようという姿勢が気にくわない。僕は無意味で駄目なものを肯定していきたい。

落語は業の肯定である、と立川談志は言った。捨てられない物に囲まれた散らかった部屋で、明日は部屋の掃除をしようと思いながら、今日も落語を聞いて眠りにつく。